計画表は、初日の朝がいちばん美しい。

「先生、これで行きます」

差し出されたA4の紙には、月曜から日曜まで、朝6時半の起床から夜11時の就寝まで、英単語・数学・古文・休憩・風呂が色違いの蛍光ペンできれいに塗り分けられていました。休憩の時間まで塗ってあります。私は「いい計画ですね」と言いました。嘘ではありません。額に入れて飾りたいくらいの出来で、実際、飾っておいた方が長持ちしたと思います。

翌週その紙のことを聞くと、「初日に寝坊して、そのまま……」と言葉が途切れました。月曜の朝、6時半に起きられなかった。それだけで、月曜から日曜までの全コマがまとめて無効になったそうです。

完璧主義そのものの話は別の機会にして、今日は「初日に崩れた後」の話だけをします。崩れるのは誰でも崩れます。問題は、その後の全放棄です。

崩れ方には、ほぼ決まった手順があります

塾業界に20年ほどいて延べ数千人の受験生を見てきましたが、計画表の崩れ方は驚くほど種類が少ないです。

まず初日か二日目に一コマ抜けます。寝坊、頭痛、友達からの連絡、なんとなく。理由は何でも構いません。次に「ずれた」と感じます。10時にやるはずだった数学が11時になった。これがなぜか許せません。そこで「今日はもう無効」という判定が下り、その日の残りが丸ごと消えます。翌日は「今週はもう無効」、週末には「今月はもう無効」。そして新しい計画表を作ります。全工程の中で、この作業がいちばん楽しい。

計画表を作るための道具も充実しています。方眼ノート、ウィークリー手帳、バーチカル手帳、付箋(大・中・小)、蛍光ペン五色、時間管理アプリ、勉強記録アプリ、スマホの壁紙にした年間カレンダー、Excel、Excelが重いので結局手書き、さらに「計画の立て方」を解説した本。これらを揃えて計画表を作り直している時間を合計したら、たぶん英単語帳が一周しています。人は計画表を作っている間だけ、成績が上がったような気分になります。上がっていません。

満点の計画表で受かる人はいません

昔、ブログに「本番に強くなる方法」という記事を書きました。中身は単純で、「失敗を織り込んで、トータルの点数を意識する」だけです。本番に弱い人は神経質な完璧主義者である傾向があり、ひとつの失点で気が動転して実力が出ません。実際の入試ではどの科目でもまず満点は狙えませんから、失点を最初から計算に入れていない人は、必ずどこかで壊滅します。

高校の先輩に、現役で東大の最難関に確実と言われていた天才的な方がいました。その方が本試験の英語で第一問の冒頭がまるで読めず、そのままペースを崩して英語全体が壊滅し、一浪を余儀なくされました。幼少時から天才と呼ばれ、翌年きっちり合格するような超高学力の人でも、失点はします。そう考えると、その他大勢の受験生が「最初の失敗でペースを崩して……」とコメントすること自体がおこがましいようにも思えます。そんなに完璧な学力があるのですか、と聞きたくなります。

計画表も同じです。初日の朝に一コマ抜けたからといって全部やめる人は、自分の計画表に満点を要求しています。そんなに完璧な計画を作れるのですか、と聞きたくなりますね。作れません。作れるなら、そもそもこの記事を読んでいないでしょう。

テストで7割と言うと、相当失点した感覚があるはずです。しかし私の見てきた範囲では、7割前後も取れば受かる入試がほとんどです。計画表も7割で十分に回ります。むしろ、初日に3割落とす前提で作った計画表しか、二日目の朝を迎えられません。

半日抜けても継続です。先にそう決めてください

ようやく本題です。

サッカーで前半に1点取られたチームが、ハーフタイムのロッカールームでそのまま帰り支度を始めることはありません。始めたらニュースになります。ところが計画表の世界では、朝に1点取られただけで帰り支度を始める人が大量にいます。ニュースにもなりません。多すぎて。

やることは三つです。

ひとつ目。「継続」の定義を、崩れる前に決めておいてください。私が本人と決めているのは「半日抜けても継続。一日抜けても、翌日の最初の一個をやれば継続」です。これを崩れてから決めると、必ず自分に不利な判定を下します。人間は、崩れた直後の自分に対してだけ異常に厳しい審判になります。

ふたつ目。抜けた分は取り返さない。これが一番大事で、一番守られません。やらなかった分を翌日に回すと、翌日は二日分になります。翌日も抜けると、翌々日は三日分。一週間もすると計画表が借金の督促状に見えてきますので、そこで全放棄が起きます。抜けは抜けたまま先へ進んでください。昼の歯磨きを忘れた人が、夜に昼の分までまとめて磨くことはありません。忘れた歯磨きは、忘れたままです。それで人生に支障が出た人を、私は知りません。

みっつ目。戻る場所を「計画表の初日」にしない。全放棄した人はたいてい「来週の月曜から、初日からやり直します」と言います。すると、また美しい月曜の朝が来て、また同じ手順で崩れます。戻る場所は、今日のこのコマです。木曜の午後3時から始まる計画表を私は何枚も見ましたが、それらはだいたい、美しい月曜の計画表より長生きしました。

全放棄は、楽です

なぜ一コマ抜けただけで全部やめるのか。「水が低きに流れるように、人は楽をしようとする」からです。昔のブログにも書いたことで、今も考えは変わっていません。

0か100かの100はしんどいです。しかし0は楽です。「計画が崩れたから」という言い分があれば、0を選んでも誰にも怒られません。自分にも。0か100かの完璧主義は真面目さの形をしていますが、半分は「合法的に0を選ぶための装置」として働いています。「明日から本気出す」の明日は、カレンダーには載っていません。

これがさらに進むと「そもそも計画って必要なのか」「勉強って何のためにやるのか」「現実って何だ」と言い出します。ここまで来ると、もはや手の施しようがありません。私がそうでした。

念のため書きますが、「頑張らなくていい」とは言いません。むしろ頑張ってください。頑張る日数を減らさないために、初日に崩れた程度で全部やめる仕組みだけを外してほしい。順番の問題です。

再始動ラボでやっていること

再始動ラボでは、初回に計画表を預かります。本人が作った美しい一枚を私が持ち、代わりに「今日やる一個」だけを決めて、毎日確認します。抜けた日は「抜けた」と一行書いてもらいます。書いた時点で、その日は継続扱いです。これを続けると、一か月後の記録は穴だらけです。穴だらけの記録が一か月分たまった頃に、本人の顔つきが変わってくることが多いです。

初日の朝の計画表は、たしかに美しいです。ただ、額に入れるなら、私は二週目の、穴だらけで折り目のついた方を選びます。値段はつきませんが、そちらの方がはるかに高価です。

短縮版は note にも掲載しています。