偏差値より先に返信が戻ってくる。

面談が一通り終わって、親御さまが鞄を膝の上に乗せてから、ほとんどの場合もうひとつ質問が出てきます。「それで、成績はいつ頃上がりますか」というもので、聞かれる側からすると、これほど答えにくい質問もありません。模試を一度も受けていない子の偏差値がいつ上がるかは、私にもさすがに分かりません。ただ、偏差値が動く前に、家の中で先に起こることがいくつかあって、そちらなら順番も含めてかなり正確にお答えできます。一番先に起こるのは、本人のスマホから返信が戻ってくることです。

既読のまま、三日

始めてすぐの頃の子に、こちらから「今日は何ページまででしたか」と送ると、既読は付くのですが、付いたまま三日ほど止まります。四日目あたりで、親御さまの方から「本人が返事をしないので、代わりに」というメッセージが届き、そこには今日もやっていないらしいことが書いてあります。親が100で本人が0という状態は、この画面にそのまま出ています。長く見てきて一番多いのはこの状態から始まる子で、珍しいことでは全くありません。

返事をしないのは、こちらを無視しているのではありません。返事の中身が「やっていません」になるので、打つ指が止まるだけです。

戻ってくる順番

塾業界に20年いて、止まっていた子が動き始める時に何が先に変わるかは、大体決まっています。順番で言うと、まず既読が付くのが早くなります。次に返信が来ますが、中身は「はい」の二文字で、こちらの質問には答えていません。それでも本人の指で打ったものがこちらに届いたという事実が、一行目です。

その少し後に、「今日は無理そうです」という返信が来る日があります。この返信を私はかなり喜びます。やっていないことを、言い訳の前に、自分の言葉で報告できたのは、多くの子にとって初めてのことだからです。既読のまま三日だったものが、「今日は無理そうです」の一行に変わっています。偏差値に換算すればゼロのままですが、約束の方は、この日に初めて守られています。

その先はもう少し分かりやすく、出すと言った日に出すようになります。金曜に出すと言ったものが、金曜の夜に出てきます。内容は半分でも構わなくて、この段階では日付が合っていることの方が中身より大事です。そして最後に、質問がひとつ来ます。「これ、二十ページまでですか、二十一ページまでですか」という、中身のない質問です。中身のない質問が来たときに、私はこの子はもう大丈夫だと思います。分からないところを聞けるのは、やっている人だけだからです。やっていない人には、どこが分からないかが分かりません。

返信までの日数、提出日のずれ、質問の数、どれも数えれば数字になるのですが、模試の成績表には印刷されませんし、集計しているのはこちらと親御さまだけです。

偏差値は、一番後ろを歩いています

点数が要らないと言っているのではありません。かつて書いた「大学受験は結果を出してナンボ」は48歳になった今も撤回する気がありません。ただし、どこまでいっても試験は水物で、百パーセントではありません。

これは順序の話です。学歴とは、やるべきことをやるべき時期にどれだけやれたかを測る指標で、偏差値はその測定結果の方です。測定の前に、やるべきことがやられている必要があり、その前に、やると言ったことを本人が自分でやったという事実が要ります。返信、提出日、質問の順に戻ってくるのは、その事実が積み上がる様子が外から見えているだけで、偏差値はその列の一番後ろを歩いています。前が止まっているのに一番後ろだけが先に動くことはありません。当然。

止まっていた子が一番失っているのは、英語の点でも世界史の点でもなく、自分が言ったことを自分で守る、という感覚だと思います。逆に、これが戻ってくると、点数の方も後から動き始めます。後からというのがどのくらい後かは子によって違いますし、そこはやはり水物です。ただ、返信が戻ってくる前に偏差値が上がった子には、まだ会ったことがありません。

竿先が動いた日は、また行きたくなります

ここで少し脱線します。数年前に友人に連れられて一度だけ海釣りに行き、朝の五時から三時間、魚は一匹も釣れませんでした。それでも途中で二回、竿先がぴくりと動いて、その二回だけで、帰りの車の中ではもう次はいつ行こうかと考えていました。隣で同じ三時間座って一度も竿先が動かなかった友人は、以来一度も誘ってきません。釣果はどちらもゼロです。

魚が釣れることと竿先が動くことは別の出来事で、釣れる方はずっと後です。ただ、竿先が一度も動かない三時間を何度も乗り切れる人間は、そう多くありません。親御さまが見ているのは魚の方で、それは正しいのですが、本人が今見ているのは竿先の方です。返信が戻るとか、金曜に出すとか、質問がひとつ来るとかは、全部この竿先の動きで、それが二回あった週は、翌週も机に戻りやすくなります。

親御さまに、見ていてほしい数字

ようやく本題に戻ります。成績はいつ上がるのか、という冒頭の質問への答えです。しばらく数字が出ないのは普通のことです。代わりに、家の中で数えられるものを三つ見ていてください。返信までに何日かかったか、出すと言った日と実際に出た日が何日ずれたか、本人から質問が何回来たか。この三つが、偏差値より先に動きます。

現時点では、うさんくさいと思われるかもしれません。昔のブログに同じようなことを書いた時も、当時の生徒に「うさんくせえな、こいつ」という顔をされました。その子たちの偏差値がその後どうなったかはここでは書きませんが、付き合いは続いていて、返信だけは今でも早いです。

短縮版は note にも掲載しています。